DEF CON REPORT

DEF CON 34参加レポート ― Car Hacking Village CTFを通して感じたAI解析の進化

2026年8月にラスベガスで開催されたDEF CON 34に参加しました。 今回もCar Hacking Villageを中心に、車載・組み込みシステムを題材としたCTFに挑戦しました。

普段からAI支援ツールは利用していますが、今回のCTFではAIエージェントも含め、これまで以上に解析作業へ積極的に取り入れました。ファームウェア解析や通信プロトコルの調査、検証用コードの作成などを現地のCTFで実際に試した結果、以前と比べて、AIをセキュリティ解析の支援ツールとして活用できる場面が広がっていると感じました。

本記事では、DEF CON 34とCar Hacking Villageの様子やCTFへの参加を振り返りながら、実際の解析を通して感じたAI活用の変化について紹介します。あわせて、CTF以外の例として、CHVバッジのファームウェアを解析・改変し、電源OFF後も長時間続くLED点灯を短縮した事例についても紹介します。

DEF CON 34 / Car Hacking Villageの概要

DEF CON

DEF CONは、1993年から開催されている世界最大級のハッカー・セキュリティカンファレンスの一つです。毎年ラスベガスで開催され、セキュリティ研究者やエンジニア、学生など幅広い参加者が集まり、講演やワークショップ、CTF、各種Villageでの展示・体験型企画などが行われています。

Car Hacking Village

Car Hacking Villageは、自動車・車載システムのセキュリティに関する教育や啓発を目的としたコミュニティで、DEF CONでは車載セキュリティに関する講演や展示、ワークショップ、CTFなどを実施しています。

CTFではCANなどの車載通信だけでなく、組み込み機器や診断、無線通信など、実際の自動車やその周辺システムを意識したさまざまな課題に挑戦できます。今回も実機を利用する課題が多数用意されており、会場で機器に接続しながら解析・検証を進める形式になっていました。

Car Hacking Village CTF

Car Hacking Village(以下、CHV)では、車載通信や組み込み機器などを題材とした複数のCTF課題が用意されていました。 今回は会場に設置された実機を利用しながら、いくつかの課題に取り組みました。

CTFのカテゴリと実機

CHVのCTFでは、車載CAN/CAN-FDやUDSといった車載通信だけでなく、UART、RFID、BLE、Wi-Fi、MQTT、OCPP、SOME/IP、ISO 15118など、車両本体から充電器、モバイルアプリ、バックエンドまで幅広い領域を題材にした問題が用意されていました。

HYCu / MYCu

EV急速充電器を題材としたターゲットで、UARTやCAN、RFID、PLC、MQTT、OCPPなど複数のインターフェースを扱う課題がありました。

Tiny Trek

小型車両を使った3段階の問題で、CAN-FDの診断ポートから内部バス、さらに無線制御へと段階的に対象が広がる構成になっていました。

DriveSec

Wi-Fi経由で取り組める問題群で、SOME/IPやBLE keyfob、ISO-TP、Androidアプリ、内部Webサービスなどを題材にした問題がありました。

CHVバッジCTF

CTF専用バッジには、CAN上のタイミング制御、UDS/DTC処理、C extensionのメモリ処理をテーマにした3問が用意されていました。

CHVバッジCTFの解析

バッジのハードウェア構成を基板上で確認し、RPi PicoをデバッガーとしてSWD経由でファームウェアを取得し、解析環境を整えました。今回はCTFという許可された競技環境であることを前提に、ファームウェア取得後にそのファームウェアと解析環境をAIエージェントへ渡し、CTF問題の内容とあわせて解析を進めました。方向性やゴールを適宜示す必要はあったものの、指示を加えながら進めることで、AIエージェントはファームウェア内部からCTFに関連する処理を探し、MicroPythonモジュールやC側の実装を解析しながら、通信仕様や脆弱性につながる可能性のある実装箇所を整理していきました。その結果を確認しつつ、必要に応じて実機から追加の情報を取得して再び解析へ戻す、という流れを繰り返しました。

最終的には3問それぞれについて再現用のPythonスクリプトを作成し、会場で公式から貸与されたCTF専用バッジを使って、許可された競技環境で3問すべてのflagを取得できることを確認しました。詳細な解法については、解析結果と再現用スクリプトをGitHubで公開しています。具体的な技術内容については、そちらのWriteupをご参照ください。

CTF側のAI利用への対策

今回のCHV CTFでは、AIエージェントを解析に利用していた参加者も一定数いたのではないかと感じました。一方、出題側でも、こうした利用をある程度想定した仕掛けが用意されていたように見受けられます。

分かりやすい例として、DriveSecのSOME/IP問題では、解析対象のバイナリ内に、AIによる解析を誤誘導することを意図したと考えられる文字列が多数含まれていました。解析を中止するよう促す文章や、実際の実装とは異なるプロトコル情報、偽のflagなどが含まれており、単に文字列を抽出して信用するだけでは正しい解析結果に到達しにくい構成になっていました。自然言語によるprompt injectionを意識した、いわば「anti-AI analysis」のような仕掛けだったと考えられます。1

また、CHVバッジCTFでも、少なくとも会期途中からは単にflagを入力するだけではなく、「You must show proof of solving this problem.」という一文が追加され、実際に問題を解いたことを示すよう求められるようになっていました。これがAI利用への直接的な対策だったのかは分かりませんが、解答だけではなく、その過程や再現性も確認しようとする意図が感じられました。

CTFにおけるAI利用については、競技性や学習効果の観点からさまざまな考え方があると思います。ここからは筆者個人の見解になりますが、セキュリティ技術を試す場として考えれば、AIを含め、利用可能なツールを適切に組み合わせながら問題を解いていくこと自体にも意味があると考えています。

実際のセキュリティの現場では、攻撃側・防御側の双方が新しいツールや技術を取り入れていきます。そのため、防御側としてもAIを特別なものとして避けるのではなく、その特性や限界を理解したうえで、どのように活用できるのかを実際に試しておくことは重要だと感じました。

CTF以外でのAI解析の利用

CHVバッジのLEDが消えない問題

CTFとは別に、会場で購入したCHVバッジについてもAIを使って調査してみました。このバッジは一度充電されると、スイッチをOFFにしてもLEDが点灯したままになる挙動がありました。2 調べてみると、ON状態では省電力処理によってLEDが消灯する一方、OFF状態ではその処理が働かず3、公称として3時間にわたってLEDが点灯し続ける仕様でした。

動画では判りにくいですが肉眼だとすごく眩しいです

ちょうどCTF用にバッジのファームウェアを取得して解析できる環境を用意していたため、ファームウェア内の電源・LED制御に関係する処理を解析し、消灯までの時間を約3時間から1分へ短縮するバイナリパッチを作成しました。パッチ済みファームウェアをバッジへ書き戻して動作を確認し、実際に約1分でLEDが消灯することを確認しました。

今回行った対策自体は、ファームウェアを書き換えて消灯タイマーを短縮するという比較的シンプルなものです。しかし印象的だったのは、現地で「このLEDはなぜ消えないのだろう」と気になったところから、そのままファームウェアを解析し、原因を調べ、修正用のバイナリパッチを作成し、実機へ書き戻して確認するところまで短時間で進められたことです。従来であれば、こうした疑問についてここまで調査するにはそれなりの時間と手間が必要でしたが、AIエージェントを利用することで、「気になった挙動をその場で解析し、対処までを短時間で実装する」こと自体のハードルがかなり下がったと感じました。

1分へ変更するためのパッチ処理はツールとして切り出し、GitHubでも公開しています。

Car Hacking Village CTFを通して感じたAI支援による解析の変化

今回のCTFを通して感じたのは、AIが単に個々の作業を補助するだけでなく、セキュリティ解析の進め方そのものを支援するツールとして活用できる場面が増えてきたということでした。

もちろん、AIを利用すればセキュリティや組み込みシステムに関する専門知識が不要になる、というわけではありません。実機への接続方法を考えたり、取得した情報が妥当か判断したり、どの方向へ解析を進めるべきか判断するためには、依然として対象技術への理解は必須です。

一方で、通信ログの確認やPythonスクリプトの作成、各種コマンドラインツールの利用など、これまで人間が個別に操作しながら情報をつないでいた作業については、AIエージェントを組み合わせることで負担を減らせる場面が増えてきました。

特に、解析結果を実機で確認し、その結果を再び解析へ戻す「解析 → 実機検証 → 再解析」のサイクルを短時間で繰り返しやすくなったことは、ハードウェアや車載システムのセキュリティ解析における一つの変化だと感じています。

まとめ

DEF CON 34のCar Hacking Villageでは、さまざまな実機を対象としたCTFに触れるとともに、 AIエージェントをセキュリティ解析にどのように活用できるのか、実際の課題を通して試すことができました。

今回の経験を通して、AIが専門家の判断をそのまま置き換えるというよりも、 解析に必要な多くの作業を横断的に支援することで、 人間が調査方針の判断や、本来時間をかけるべき仮説の構築・検証により集中できる可能性を感じました。

今後も、こうしたAI支援をセキュリティ解析の現場でどのように活用できるのか、実際の対象を使いながら検証していきたいと考えています。

  1. 今回の解析では、これらのデコイによって解析そのものが停止することはありませんでした ↩︎
  2. 厳密には消灯した瞬間に電源スイッチをOFFにすれば消灯状態で固定されるようですが… ↩︎
  3. 光ったままOFFにするとバッテリーが放電するまでずっと光っていました ↩︎

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